・ 世界最小の頭足類:ヒメイカ
ヒメイカという名のイカを知っていますか?南は沖縄から北は北海道まで、海草が生い茂る浅海の藻場に生息している大きさ2cmに満たない最も小さいイカです。外套膜にある細胞から粘液を出して、海草にくっついて隠れながらエビなどを食べています。私はこのイカの繁殖生態とその進化について研究しています。
・ ヒメイカにおける交尾後の配偶者選択
 雌は繁殖相手の雄を選んで交尾を行うのが普通ですが、近年の研究から交尾した後にも雌は雄選びを行う可能性が示唆されています。これを”Cryptic Female Choice”(略してCFC)、日本語では”雌による密かな配偶者選択”と呼ばれています。頭足類は雄が雌に精子の詰まったカプセル:精莢(せいきょう)を雌に受け渡す、交接という繁殖方法を行います。受け渡された精莢は雌の体に付着され、中の精子は精子の貯蔵器官である受精嚢に移送されるか、精子塊そのままの形で産卵まで貯蔵されます。私はヒメイカの雌が交接後に雄から受け渡された精子塊を取り外すことを発見しました。そしてその行動は大きい体の雄と交接した後ほど長い時間をかけて入念に行っていました。これらの結果はヒメイカでもCFCが行われていることを示唆します。ヒメイカにおけるCFCの証明と繁殖生態における重要度、そして何故CFCが進化したのかに注目し、本種の繁殖生態の解明に挑んでいます。 
・ 頭足類の精子貯蔵・受精様式の多様性
 イカやタコが属する頭足類では、精莢の受け渡し場所や受精嚢の構造と位置が種によって異なっています。イカの仲間においては口のすぐ近くに受精嚢を持つ種が一般的ですが、外套膜の内部にそれを持つ種もいますし、受精嚢を持たない種でも、精子塊の付着場所は外套膜内部の頸や腹側、背側等様々です。さらに、外洋性や深海性の種では精子塊を皮膚組織に埋め込む種まで存在します。貯蔵場所はバラバラながら、イカ類の受精は体外で行われると言われています。一方のタコの仲間は精子貯蔵場所こそ多様ではなく、ほとんどの種が卵巣か輸卵管腺内部にある受精嚢にて精子を貯蔵し、そのため、イカ類とは違って体内受精であることが知られています。これらの違いは何によって生まれたのかを明らかにすべく、現在は幅広い種の繁殖生態について情報を集めています。、